EUの温暖化対策の目標案提出

2015年3月6日に欧州連合(EU)*は、2020年以降の温暖化対策の域内目標案(約束草案)を正式に提出しました。EUの提出は、スイスに続き2番目です。

EUが正式に提出した目標案(PDF)

*EU加盟国…ベルギー、ブルガリア、クロアチア、チェコ、デンマーク、ドイツ、エストニア、アイルランド、ギリシャ、スペイン、フランス、イタリア、キプロス、ラトビア、リトアニア、ルクセンブルグ、ハンガリー、マルタ、オランダ、オーストリア、ポーランド、ポルトガル、ルーマニア、スロベニア、スロバキア、フィンランド、スウェーデン、英国(28ヶ国)

 

EUの目標案~域内の温室効果ガス排出量を2030年までに1990年比で40%削減~

EUは、2℃目標に沿う法的拘束力ある国際合意を実現する観点から、拘束力ある目標として、「EU域内の温室効果ガス排出量を1990年比で少なくとも40%削減すること」を掲げています。この排出削減はEU域内のものであり、国際的な貢献は算入していません。また、農業・森林・その他の土地利用の部門については、2020年までに技術的な条件が整い次第、取り決めるとしています。

 

目標案の公平性・野心

EUによれば、この目標案は、「2020年までに1990年比で20%削減(オフセット含む)」という既存の目標からは大きな前進であるとのことです。また、この目標案は、EUの目的と合致するものであり、IPCCが示した「先進国は全体として2050年までに1990年比で80~95%削減」という文脈に沿うものであるとしています。さらに、必要とされる「2050年までに1990年比で少なくとも半減」にも沿うものであると述べています。

EUは、1990年比ですでに約19%の温室効果ガス削減を達成しており、同時期にGDPが44%以上成長しているとしています。結果として、EUとその加盟国において平均の1人あたり排出量は、1990年に12トン(CO2換算)であったものが2012年には9トン(同)に減っており、2030年には6トン(CO2換算)になると予測されています。EUとその加盟国における排出量は1979年がピークでした。

 

今後のフォローアップについて

目標案の文書の中で、EUは、他の全締約国(特に主要経済国)に対し、明確さ、透明性、および理解の促進に貢献できるように、2015年3月までに自国の目標案を提出することを要請しています。また、EUは、「2℃目標」の文脈で、国別目標案の衡平性と野心について、そして各国の野心を全体としてさらに引き上げることについて議論しようと呼びかけています。

 

 EUの目標案に対するリアクション

CANインターナショナル

「欧州は多くの方法で世界の転換の先頭に立ってきており、先週(注:2/26)発表されたばかりの域内のエネルギー戦略によって、脱炭素経済に向かおうとする欧州の歩みが順調であることを明確にした。…この発表では、排出削減量を算定するときにどのように森林を扱うのかというトリッキーな問いを残している。…EUの計画では、パリ合意の下で気候変動対策をとろうとする途上国にどれくらいの追加的な支援をするのかということについて沈黙したままだ。…疑いなく、今回の発表は、パリ合意に向けての欧州の気候変動対策の『最後の言葉』にはならないだろう。」

出典:Europe becomes second party to lodge Paris climate action commitment (March 6 2015)

 

CANヨーロッパ

「EUとしてパリ気候サミットに貢献するための欧州委員会の提案は、強い、法的拘束力のある国際気候交渉の成果を求めるものだった。120団体からなるCANヨーロッパは、EUが法的形式を求めていることを歓迎するが、2021~2030年の温室効果ガス排出量についてさらに明確にすることを求める。…EU域内の目標をどのように40%削減からさらに引き上げるか示されていないのは残念だ。EUが真に衡平かつ十分に貢献していくには、温室効果ガスを2050年までに95%削減すべきであり、2030年までに少なくとも55%削減する必要がある。」

出典:Commission’s Paris proposals useful, but insufficient (February 25 2015)

 

Climate Action Tracker

「この提案は、域内で温室効果ガスを1990年比で2030年までに少なくとも40%削減するというものだ。しかし、現在これは森林吸収源も含んでおり、これは他の部門の削減量を数%弱めるかもしれない。…研究が示す、気温上昇を2℃未満に抑えるための世界的な努力に公平に貢献するための水準からすれば、EUの『40%削減』は野心的ではない。」

出典:Has the EU Commission weakened its climate proposal? Possibly (February 27th 2015)

 

気候ネットワーク

「COP19、COP20の合意の結果、3月31日までに提出することが求められていた目標案を、スイスに続いて早期に提出したことは、パリ合意に向けた重要なイニシアティブと言える。…しかし、EUの責任と能力を鑑みればこの目標は決して十分なものではない。COP21でパリ合意を成功に導くためには、排出削減努力をさらに強化し、途上国への支援についても盛り込む必要がある。」

出典:【プレスリリース】EU、パリ合意に向けて温暖化対策の新目標を発表~日本は野心的で公平な新目標の早期提出を~(2015/03/09)

 

参考リンク:国別目標案の提出状況・一覧