声明

G7広島サミットを受けて
―科学の警告に向き合い、脱炭素の加速化を急げ―

2023年5月22日
Climate Action Network Japan(CAN-Japan)

 

 広島市で開催されていたG7広島サミット(主要7ケ国首脳会議)は、閉幕に先立つ5月20日に成果文書となるコミュニケを発表した。

 G7がコミュニケの中で何度もくり返している「1.5℃目標」の実現は深刻な危機に直面している。

 気候変動に関する政府間パネル(IPCC)は、3月に発表した第6次統合報告書で、このままでは21世紀中に1.5℃を超える可能性が高いと明記した。さらに、広島サミットの開幕に先立つ5月17日には、世界気象機関(WMO)が、2023年から2027年までの5年間に、66%の確率で、世界の年間の平均気温が1.5℃を超えることが少なくとも1回起きると発表し、G7首脳に警告した。

 しかし、世界の脱炭素化を牽引する期待を担うべきG7は、この緊急性に対応する成果を上げることができなかった。

 G7は、4月に札幌で開催されたG7気候・エネルギー・環境大臣会合で合意した排出削減対策が講じられていないすべての化石燃料の段階的廃止の加速、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電所の新設の中止、再エネの導入目標などを、首脳レベルでの合意に引き上げる一定の成果をおさめた。

 しかし、他国が日本に求めていた石炭火力発電の全廃時期の明示は見送られ、「2035年までの電力部門の脱炭素化」も強化されず、「2035年までに新車の100%を電動化」も達成時期の遅れを許容する余地を与えた。

 そのうえ、ロシア産化石燃料からの脱却を名目に、一時的という条件つきとはいえ、化石ガスへの公的投資を容認した。ロシア産であるか否かにかかわらず、化石燃料からの脱却の最善の方策は省エネと再エネへの公的投資であり、すべての化石燃料の段階的廃止と化石燃料への公的支援の廃止を掲げるコミュニケの内容と矛盾する。

 また、日本が推進する水素・アンモニアの電力部門への利用については、1.5℃目標との整合性、ならびにNOxやN2Oの排出回避という条件がつけられた。これは事実上の禁止と受け止めるべきである。

 世界の希望である1.5℃目標を堅持するためには、世界全体で「排出削減対策が講じられている」か否かにかかわらず、すべての化石燃料を段階的に廃止し、再生可能エネルギーに転換しなければならない。G7には、率先して速やかな移行を主導することこそが求められている。

 

CAN-Japanメンバー団体からのコメント

小池宏隆(グリーンピース・ジャパン 政策渉外担当):
酷暑や洪水など、悲惨な気候災害が続くにもかかわらず、今年のG7は不十分な気候合意にとどまり、現状の延長線上の議論に終始しました。特に2030年までの石炭火力発電全廃目標や、ゼロエミッション車導入目標は、日本政府の反対により失敗しました。日本政府が進めるアンモニア混焼などの誤った解決策は科学的根拠や途上国の排出削減目標と矛盾します。再エネと省エネが唯一の解決策であり、誤った解決策の普及は気候変動対策を後退させます。環境について、2040年までにすべての環境における追加的プラスチック汚染の根絶を歓迎するものの、プラスチック生産制限が一番効果的な解決策であり、国際プラスチック条約の交渉でG7各国がこの提案を支持することを求めます。

伊与田昌慶(国際環境NGO 350.org Japan チームリーダー代理):
議長国日本の貧弱なリーダーシップのもと、G7合意は気候危機の緊急性に対応しえない不十分なものになりました。それでも、その内容は日本における気候・エネルギー論争の水準の先を行くものです。化石燃料のフェーズアウトや石炭火力発電の新設停止に取り組むとの内容は、今も石炭火力発電新設を許し、戦争資金になるロシアの化石燃料を買い続け、モザンビークの化石ガス事業の支援を約束した岸田首相に対する明確な牽制です。気候と平和をまもるために脱化石を求めて声をあげた世界21カ国以上の市民や若者と連帯し、気候正義のために声をあげ続けます

浅岡美恵(気候ネットワーク 代表):
今回のG7合意は、深刻化する気候危機への対応として求められる化石燃料からの脱却と再生可能エネルギーへの公正な移行を実質的に進めるには不十分な内容と言わざるを得ません。日本は、2023年の議長国としてより野心的な気候変動対策に向けたリーダーシップを示すのではなく、逆にアンモニア・水素混焼やCCUSにお墨付きを得ようと働きかけ、合意の前進を阻んできました。日本の気候政策に世界から厳しい目が向けられていることを認識し、見せかけの脱炭素ではなく、真に1.5℃目標と整合する脱炭素・再生可能エネルギーへの速やかな移行への道筋を示すことが求められます。

内田隆(市民気候ロビージャパン 副代表):
「『ネットゼロへの移行促進と費用効果高い削減手段と持続可能な経済成長を実現する主要手段としてカーボンプライシング』を先の環境大臣会合にて掲げた事に続き、今回のG7首脳宣言文19項にてカーボンプライシングを世界的に推進する『カーボン・プライシング・チャレンジ』が言及された事は評価したい。カナダではカーボンプライシング収入100%をカーボンプライシング信託基金にて運用し毎月各家庭に還元しています。オンタリオ州では月186ドルに昇り、大半の家庭でエネルギー価格上昇分以上の還元を受けています。カーボンプライシングによる収入(=予算)を国民に直接還元する手段(=カーボンキャッシュバック)を改めて構築する言動一致を、議長国日本政府には期待しております。

以上

 

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【声明】G7広島サミットを受けて―科学の警告に向き合い、脱炭素の加速化を急げ―(2023年5月22日)

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